ピュテアス|イギリス生活

英GP患者データが自動共有される!?

今、イギリスで論争となっていることがあります。

General Practice Data for Planning and Researchと呼ばれる新システムが開発されたのですが、これにより、今後イングランドのGPに保存されている患者データは、ほぼリアルタイムでNHS Digitalのデータベースに追加されることになりそうです。

これには、「生まれてから死ぬまでに記録された、身体的、精神的、性的な健康状態、薬物やアルコールの履歴など、すべての健康上の記録」が含まれます。

個人を特定する情報は、含まれないことになっています。

新システム導入についての発表があったのは、つい最近のことです。

導入開始は、7月1日とされていましたが、多くの反発を招き、昨日、9月1日に延長されました。

国民が情報を確認したり、考える時間が足りないと抗議した意見が反映されたのは良いことです。

私たちは、9月1日まで、このプログラムへの参加を拒否することができます

当初、拒否申請の期限は6月23日までとされていましたが、残り2週間を切ったところで、延長されることになったようです。NHS Digitalのページにはまだ期限日が書かれていません(6月9日現在)でしたが、9月1日になるだろうと思われています

提出しなければ、GPに登録している人全員のデータが、自動的に共有されることになります。

GP(General Practice):一般診療所
イギリスでは、かかりつけ医としての診療所を一つ選びます。日本のように「〇〇科」というクリニックは基本的にはなく、どのような症状でも、まずはGPへ連絡することになっています。診療代は、無料です。
※無料のGPやNHSとは別に、有料のプライベートクリニックもあります

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何のため?

実は、患者データはこれまでにも既に収集されており、医療サービス向上のため、イングランドにおける研究などに日々利用されています。

イギリスの医療研究は、確かに評価されています。データ共有が医学の進歩に役立っているのは明らかでしょう。

これまでに使用されていたサービスは、General Practice Extraction Service (GPES)と呼ばれ、10年以上前に開発されました。

今回のシステム改良によって、データの保存はより安全になる、とNHS Digitalはオンライン上で説明しています。

私たちのデータは、適切な目的があれば、民間企業にも無料で提供されています。

しかし、その提供先と目的については、事実上、ほとんど国民に知らされていません。

今回の新システムについて、「データを共有しない」という要求ができるようになっていますが、ほとんどの人は、これまでそれを知りませんでした。

何が問題?

政府からの発表が突然で、国民に十分な説明がないまま、計画が「静かに」進行していたことが、問題視されています。

「国民がパンデミックに気を取られている間に、導入を急ごうとしている」とも言われています。

また、情報提供が主にオンラインのみで行われているため、デジタルリテラシーの低い人たちは知ることができない、と指摘されています。

英国医師会とRoyal College of General Practitionersが共同で発行した書簡には、

適切な目的のためのデータ共有の促進を支持する」としつつも、「いかなるデータ共有にも透明性があり、GPやNHSが患者のデータをより広く利用することに対して、国民の信頼を維持することが重要」だと書いてあります。

また、患者の数を制限している現状況の中で、患者への情報提供をGP任せにすることは適切ではない、としています。

医療プライバシーキャンペーン団体「MedConfidential」は、「国民の信頼を失い、その過程で、研究に悪影響を及ぼす可能性がある」と批判しています。

2013年に開始された政府の同様の計画(care.data)を思い出す人もいるようです。これは、プライバシー保護の不備や、データの民間企業への売却などが問題となり、後に廃止されました。

今回のことは、「右寄り」として有名なDaily Mailでさえ、大きく首を傾げています。
Daily Mail: Did you know the NHS is about to share your records?……
Daily Mail: So who will have access to YOUR medical records?……

正当な、医療の向上のためにデータが使用されることは、誰もが望むでしょう。

しかし、患者の知らないところで提供されているデータが、知っていれば倫理的に受容できない用途で使われること、また、どこかの誰かや企業の利益のために利用されることがあり得るのではないかとも、懸念されています。

「政府からの説明がないまま、個人情報に関わる変更がなされることを国民が容認した」という前例を作りたくないというのもあるでしょう。

多くの医師、専門家、ジャーナリスト達が一斉に注意を呼びかけていることは、注目に値します。

The Guardian: Tell me how you’ll use my medical data. Only then might I sign up

どうやって拒否するの?

データ共有をしない選択をする方は、
NHS Digitalのサイトで入手できるフォーム(Type 1 Opt-out か National Data Opt-out、またはその両方)に記入し、期限日までにGPへ提出することで、NHS Digitalへのデータ共有を全て、または一部、拒否することができます。

詳しくは、こちらでご確認ください。

Thin edge of the wedge

‘Thin edge of the wedge’ .

直訳すると、『くさびの薄っぺらのところ』。

これは、

「大きな展開(特に望ましくない展開)の始まりとなる、小さな変化」

「些細なことが、大きな変化のきっかけとなり、やがて望ましくないものとなる」

という意味の、比喩的なイディオムです。

今回のプログラム、皆さんはどう感じますか?

「研究の役に立つならいいんじゃない?」

「患者のデータを集めることは、明らかに医療の進歩に役立ちそうだよね?」

そんな風にも思いますよね。一方で、

「本当に病歴などのデータに限定されるの?」

「個人情報が漏れることはない?」

そんな不安がよぎるかもしれません。

「十分なセキュリティ体制があり、研究の役に立つなら、喜んで協力したい」

きっと、そう思う人がほとんどではないでしょうか。

データ共有というのは、原則として、当人がその目的を理解し、同意のうえ行われるべきですよね。

今回のプログラムは、本当に「プライバシーや倫理的な問題をきちんとクリアしていて、未来の医療に役立つ素晴らしいもの」、となるのかもしれません。

しかし、国民の納得を得ていないどころか、十分な説明がなされていないので、実態が不透明だとされています。

データ共有の拒否を検討している人たちは、これが大きな良くないことへの入り口となる可能性を、懸念しています。

まとめ

膨大な情報に溢れるいま。

何を信じるか。信じることにするのか。

色んなことについて、言えることですよね。

「私はこう思うから、今回は、こういう選択をしよう。」

最後は自分で決めるしかありません。

できるだけ信頼できる情報を選んで照らし合わせ、一つずつ、選択していきましょう。

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